千夜千冊エディション 芸と道 (角川ソフィア文庫)

千夜千冊エディション 芸と道 (角川ソフィア文庫)の詳細

私の母は琴と三味線のお師匠さんをしている。子どものころ家中に尺八や琴や三味線の音が流れていた。それに反発して私はクラシックを好んだ。いまから考えると随分もったいないことをしたもんだ。この本を読んで、いろんな音曲が出てくる。例えば、豊後節、常磐津、新内、清元、長唄、小唄、端唄、歌沢・・。ところが私にはこれらの違い（機微）がよくわからない。馴染む機会があったのに、いまとなっては遅い。残念である。この本でとりあげられているのは、〇能・狂言〇音曲（三弦・琵琶・琴・・）〇歌舞伎・文楽〇落語・喜劇役者松岡の守備範囲は広い。それもそのはず、それぞれの本の紹介のなかにこどものころの父親との思い出が頻出する。例えば「桂文楽」のところでは、・・父は落語だけが好きなのではなく、歌舞伎も新派も相撲も大好きで、それぞれ贔屓をもって散財した。だからわが家にはお金がたまらない。しかし、ひとつ筋が通っていた。それは玄人中の玄人にベタ惚れするということで、こうなるとキリがない応援振りなのである。もうひとつの父のクセのような趣味は、そういう玄人の芸をぼくに見せたがること、その芸の説明をしたがることである。・・「セイゴオ、目を、目を見なさい。ええか、ピューッって走るで。」だから、この本はあきらかに父へのオマージュだ。最近芸能界と反社会勢力の関係についての話題が多い。松岡の考えは、・・ぼくはヤクザや反社会的勢力やアウトサイダーのからまない芸能界、つまりはテレビ局と代理店とプロダクションとメディアだけが動かしている芸能界などというものは、いろんな意味で薄っぺらなものだと思っている。・・