東大で教えた社会人学 (文春文庫)

東大で教えた社会人学 (文春文庫)の詳細

本書の内容は、内容が少なくとも20年は古い。20年古い内容を40年後の定年までの話に持っていこうとするから、時代認識が60年ずれるのだ。工学部卒業の社会人が無難に、可もなく不可もなく社会人人生を送って定年を迎えるための処世術を切々と述べている。いかにしてつまらないおっさんになるかの道筋をタラタラと述べただけ。 本書を読むと、数百人規模で工学修士、工学博士を抱えている日立やそのほか重電メーカーなどがいかにして凋落したかもはっきり分かるような気がする。過去のデータから、勤続年数、社歴、ﾎﾟｽﾄ、年収を単純模式化し、そのモデルケースから外れないためにいかに立ち回るかというを、ただでさえ保守的な東大工学部でもっともらしく「社会人学」として銘打って教えてしまえば、教わった人間は、20代でありながら中身は60代という若年寄になってしまうだろう。今更ながら思うのは、東大で教えていることってこんなもん？？という感覚。この時代、学生時代に学んだ専門領域でメシを食っていける人間は幸にも不幸にもごく一握りの一握りではないか。多くは専門外の領域で生きることとなる。それでは社会人学として何が必要か。答えは、1)自発的に自分の研究テーマを毎年決めて勤務外の時間をそれに充てる2)企業人としての生命力を向上させるべく、専門バカにならない教育をする3)技術者の視点から経営を俯瞰するための視野の作り方を教えるなどだと思う。残念ながら本書は会社に入る前から会社という組織にしがみ付くことを美徳として教えるだけで、肝心の生命力強化を触れていないのは残念だ。転職や企業についても、選択としてはあり得るということをお浚いした程度。失敗学関連での著作の出来と比べると、お粗末との印象は拭えない