疑似科学と科学の哲学

疑似科学と科学の哲学の詳細

前提1：はげでない人から髪を1本抜いてもはげにはならない。前提2：髪が10000本ある人ははげではない。この二つの前提を認め、前提1を2に何度も適用すると、髪がゼロ本でもはげではないことになる。しかし、それはおかしい。伊勢田氏は、はげとはげでない人の間の関係は「明確な線は引けないけれども差はある」ことのわかりやすい例だと主張する。そして、科学の線引き問題―科学と非科学との間にはどのように線がひけるのかという問題―も、線を引かずに程度の問題として考えるべきだと主張する。帰納主義や反証主義、ローダンのリサーチ・トラディション、ヒュームの懐疑主義、ファイヤアーベントのAnything goes、クーンのパラダイム論、ラカトシュのリサーチ・プログラム、ハッキングやカートライトの介入実在論、クワインの過少決定など、さまざまな線引き基準が提示されるが、それに対する批判も行われ、結局、ただ一つの明確な線引き基準は見つからないという結論になる。そこで、伊勢田氏は、科学の線引き問題においては、これらの基準を一つ一つ項目として考え、これらさまざまな項目をどれぐらい満たすかで、その営みがどれぐらい科学的かを考えるえべきだと主張する。なお、ラトゥールやカロンの議論は、第4章の科学知識社会学のところですらっと流されてしまっているが、彼らは、科学／社会という区分に反対し、科学的事実を構成する際にアクターとして活躍するものはすべて「科学」だと主張している人たちで、特にラトゥールは社会構成主義の人たちからはよく引用されている重要人物である。